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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)895号 判決

控訴人

崔寅桂

右訴訟代理人

吉田訓康

被控訴人

朴漢植

右訴訟代理人

曾我乙彦

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人が控訴人に対し大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第五一六八号原状回復等請求事件判決の執行力ある正本に基づいて昭和五〇年一一月四日原判決添付別紙目録(一)記載の動産について強制執行をしたこと、右判決は、控訴人に対し原状回復義務履行金五〇〇〇万円とこれに対する昭和四一年七月四日以降完済に至るまで年五分の割合による利息及び損害金五〇〇〇万円とこれに対する昭和四二年八月一日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を命じたものであつて、昭和五〇年二月二五日確定したことは当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

1  大阪地方裁判所昭和四七年(ヌ)第一七〇号不動産強制競売事件において、被控訴人は控訴人に対する前記判決(仮執行宣言付)に基づき元本一億円とこれに対する利息、遅延損害金三九六一万一四五〇円(内訳は、原状回復義務履行金五〇〇〇万円に対する昭和四一年七月四日から同四九年一二月一九日まで年五分の割合による利息、損害金五〇〇〇万円に対する昭和四二年八月一日から同四九年一二月一九日まで年五分の各割合による遅延損害金。)及び執行費用三二四万七八二〇円をもつて配当要求し、昭和五〇年一〇月六日の配当期日に確定(右確定の事実は当事者間に争いがない。)した配当表(甲第四号証)に基づき同月一四日競売代金のうち八二三二万七一一〇円の交付を受け、うち三二四万七八二〇円が執行費用に、三九六一万一四五〇円が前記利息、遅延損害金に、三九四六万七八四〇円が元本に充当され、元本の残額は、六〇五三万二一六〇円となつた。

2  これよりさき同裁判所昭和四二年(ヌ)第二九二号不動産強制競売事件において、被控訴人は控訴人に対し前記原状回復義務履行金五〇〇〇万円のうち元本四五〇〇万円を被保全権利として目的不動産に仮差押をしていたので、昭和四四年五月七日の配当期日に確定(右確定の事実は当事者間に争いがない。)した配当表(甲第三号証)に基づき元本二四六〇万四二円の配当を受けうることとなつたが、被控訴人は当時債務名義を有していなかつたため、民事訴訟法六三〇条三項により右金員は供託された。被控訴人は昭和五〇年二月二五日前記判決が確定したので、これを債務名義として同年一〇月一五日右配当金二四六〇万四二円とこれに対する供託されていた間の供託利息金三五四万二四〇〇円の合計二八一四万二四四二円の交付を受け、これを1の残元本に充当し、元本の残額は三二三八万九七一八円となつた。

3  被控訴人は、前記原状回復義務履行金五〇〇〇万円と損害金五〇〇〇万円との合計一億円に対する昭和四九年一二月二〇日から同五〇年一〇月一四日までの年五分の割合による利息、遅延損害金四〇九万五八九〇円及び右残元本三二三八万九七一八円の内金九〇万四一一〇円以上合計五〇〇万円を請求債権とし、債務者控訴人が第三債務者和田良馬に対して有する五〇〇万円の賃料債権を差押えるべき債権とする債権差押及び転付命令を申請し(大阪地方裁判所昭和五〇年(ル)第二五〇七号、同五〇年(ヲ)第二六一一号)、同趣旨の債権差押転付命令(甲第五号証)が昭和五〇年一〇月二四日発せられ、右命令正本は昭和五〇年一〇月二九日第三債務者に、同月二八日債務者にそれぞれ送達された。よつて、右五〇〇万円は弁済したものと看做された。これを被控訴人の請求どおり充当したとすると、元本の残額は三一四八万五六〇八円となる。

4  被控訴人は右残元本のうち三一四八万五六〇二円に対する昭和五〇年一〇月一六日から同年一一月五日までの年五分の割合による利息、遅延損害金九万五七三円と右残元本のうち二四二九万九四二七円との合計額二四三九万円を請求債権とし、債務者控訴人が第三債務者嘉根博正(強制管理人)に対して有する強制管理終了に伴う清算金返還請求権二四三九万円(強制管理人が債務者所有の不動産について取得した昭和四四年二月二〇日から昭和五〇年七月末日までの月額三〇万円の割合による賃料)を差押えるべき債権とする債権差押及び取立命令を申請し(大阪地方裁判所昭和五〇年(ル)第二六一六号、同五〇年(ヲ)第二七二〇号)、同趣旨の債権差押取立命令(甲第六号証)が昭和五〇年一一月二〇日発せられ、被控訴人はこれに基き昭和五〇年一一月二〇日現実に一六四九万四八四〇円を取立て同日大阪地方裁判所にその旨届出た。右取立金を被控訴人の請求どおり充当したとすると、元本の残額は一五〇八万一三四一円となる。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三ところで、利息、遅延損害金の額の計算について当事者間に争いがあるので、判断する。

1  控訴人は、前頃2の配当期日に配当表が確定した段階で配当要求債権に対する弁済の効果が発生し、弁済された元本二四六〇万四二円に対しては昭和四四年五月七日以降利息は生じない旨主張し、被控訴人は、仮差押債権者は債務名義取得前は取立権能がなく、債務名義取得後であつても取立権能を有するというだけのことで直ちに弁済の効果を発生するものではないから右主張は失当である旨主張する。

按ずるに、民事訴訟法六三〇条三項によれば、仮差押の場合においてまだ確定しない債権の配当額は供託すべきものとされているが、右供託は、弁済のためにする供託ではないから、これによつて直ちに債務者が債務を免れるものと解することはできない。仮差押債権者が仮差押の被保全債権について仮執行宣言付判決を得たときあるいは確定判決を得たときでも、同様である。しかしながら、仮差押債権者が被保全債権について確定判決を得たにもかかわらずいつまでも右供託金を受領せずに放置しておいたとすれば、債務者は確定判決によつて支払を命ぜられている利息、遅延損害金と供託利息との差額だけ損失を被ることとなり不合理であるから、仮差押債権者は、確定判決を得たのち現実に配当金を受領する手続をとるために必要とする相当期間の経過後においては、供託された元本相当額に対する利息、遅延損害金の請求権を有しないものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、被控訴人が確定判決を取得したのは昭和五〇年二月二五日であつて(弁論の全趣旨によれば上告棄却の判決によつて確定したものと認められる。)、現実に配当金を受領したのは同年一〇月一五日であるところ、本件において右手続をとるために必要とする期間は二週間と認めるのを相当とするから、被控訴人は昭和五〇年三月一二日以降元本二四六〇万四二円に対する年五分の割合による利息を取得できず、右元本に対する昭和五〇年三月一二日から昭和五〇年一〇月一四日までの年五分の割合による利息七三万一二六一円に相当する金額と前記九〇万四一一〇円の合計額一六三万五三七一円を前頃2の残元本三二三八万九七一八円から差引くべく、そうすると元本の残額は三〇七五万四三四七円となる。そして、前項4において被控訴人の取得した利息、遅延損害金九万五七三円(起算日は本来昭和五〇年一〇月一五日とすべきところ、被控訴人は同月一六日として計算しており、元本を三〇七五万四三四七円とし起算日を同月一五日として計算すると九万二二六三円となり、かえつて控訴人に不利益となる。)を取立金一六四九万四八四〇円から差引いた残金一六四〇万四二六七円を前記残元本三〇七五万四三四七円に充当すると、元本の残額は一四三五万八〇円となる。控訴人は右金額とこれに対する同年一一月六日から完済まで年五分の利息遅延損害金の支払義務がある。

2  転付命令はその効力発生時に、また取立命令は債権者が第三債務者から現実に取立てたときにそれぞれ弁済の効果が生ずるのであるから(民事訴訟法六〇一条、五九八条二項、六〇八条、六二〇条一、二項参照。)、債務者である控訴人が仮差押により第三債務者和田良馬から月々賃料債権を取立てることを禁止されていたとしてもこれによつて被控訴人の控訴人に対する債権について利息、遅延損害金が発生しなくなるものではなく、また、強制管理により第三債務者(強制管理人嘉根博正)が賃借人より毎月賃料を取立てていたとしても、右取立にかかる賃料がその都度被控訴人の控訴人に対する債権に充当されたものとして、その充当部分について遅延損害金が発生しなくなるものと解すべきものでもない。この点に関する控訴人の主張は採用することができない。

三よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(川添萬夫 吉田秀文 中川敏男)

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